ジミヘンがギターを逆に構えた理由|左利きの苦悩と伝説のトーンの真相
エレキギターの歴史を根底から塗り替え、没後半世紀以上が経過した現在も頂点に君臨し続ける孤高のギタリスト、ジミ・ヘンドリックス。彼を象徴するビジュアルといえば、白やサンバーストの右利き用フェンダー・ストラトキャスターを上下逆さまに構えて左手でかき鳴らす姿です。
一見すると強烈なステージパフォーマンスや単なる奇をてらったスタイルに見えるこの構えですが、その背景には当時の過酷な家庭環境と左利きに対する偏見、そして物理法則がもたらした奇跡的な音響効果が複雑に絡み合っています。なぜジミヘンは右利き用ギターを逆さまにして弾き続けたのか、その生い立ちの苦悩からストラトキャスターの内部構造が生み出した唯一無二のトーンの秘密まで、音楽史と音響構造の双方から徹底検証します。
📌 【この記事の重要ポイントまとめ】
- 生い立ちの真相:左利きを「悪魔の兆候」と忌み嫌った父親の厳格なしつけと、当時レフティ用ギターが極めて高価かつ入手困難だった時代背景が発端。
- 弦の張り方の独自性:ギター本体を逆さにしつつも「太い6弦を上、細い1弦を下」へと正規順に張り直して演奏しており、そのまま上下逆に弾くスタイルとは一線を画す。
- サウンドの科学的秘密:「逆スラントピックアップ」と「リバースヘッド」の相互作用により、1・2弦の耳に痛い高域がマイルド化され、5・6弦のアタックと低音の引き締まりが劇的に向上した。
なぜ右利き用を逆さまにしたのか?ジミ・ヘンドリックスの生い立ちと「左利きの苦悩」
ジミ・ヘンドリックスが右利き用ギターをひっくり返して演奏していた最大の原点は、1950年代アメリカにおける左利きへの強い偏見と家庭環境にあります。
ジミの実父であるアル・ヘンドリックスは極めて厳格かつ信心深い人物であり、当時の社会的通念も手伝って「左利きは悪魔の仕業(不吉の象徴)」と盲信していました。幼少期のジミが左手で物を持とうとするたびに厳しく折檻され、文字を書く際は右手を強制されたというエピソードは自伝や関係者の証言でも広く知られています。実際、ジミヘンはサインや手紙を書く際は右手を使い、ギターを弾くときだけ本来の利き腕である左手を使っていました。
少年時代、父親の目を盗んでギターを練習していたジミは、父親が部屋に入ってくると慌てて右手に持ち替え、右手弾きの真似をして怒りを回避していました。この経験から、彼は「右利き用ギターを瞬時に反転させて演奏するスキル」を身につけざるを得なかったのです。
さらに経済的な要因も決定打となりました。1960年代初頭、左利き用(レフティ)のエレキギターは市場にほとんど出回っておらず、特注扱いで右利き用よりも約1.5倍から2倍近く高額でした。貧困にあえぐ下積み時代のジミにとって、質屋や楽器店で安価に入手できる右利き用の中古ストラトキャスターを買い、自分で改造して使うことこそが唯一の現実的な選択肢だったのです。

【徹底比較】ジミヘン独自の「弦の張り方」と他の左利きギタリストの決定的な違い
左利きギタリストが右利き用ギターを演奏するアプローチには、大きく分けて2つの流派が存在します。ネット上の知恵袋やコミュニティでも「ジミヘンは上下逆の弦のまま弾いていたのか?」という疑問が頻繁に交わされますが、事実は異なります。
アルバート・キングやオーティス・ラッシュ、日本で言えば松崎しげる氏などは、右利き用ギターをそのままひっくり返し、「上側に1弦(細い弦)、下側に6弦(太い弦)」が来るセッティングで演奏します。この場合、コードフォームの押さえ方やピッキングの軌道が通常とは完全に反転します。
一方、ジミ・ヘンドリックスはナット(ネックのヘッド側にある弦を支えるパーツ)を左利き用に削り直し、ブリッジサドルを調整して「上側に6弦(太い弦)、下側に1弦(細い弦)」という通常の並び順に弦を張り直していました。
| セッティング方式 | 弦の配列(構えたときの上側) | 主な代表ギタリスト | 演奏性・サウンドの特徴 |
|---|---|---|---|
| ジミヘン方式(逆張り) | 上側:6弦(低音弦) 下側:1弦(高音弦) | ジミ・ヘンドリックス | 通常のコード理論がそのまま使え、親指を使ったベース音の押弦が可能。ハードなアーミングにも最適。 |
| 完全反転方式(ノーマル弦) | 上側:1弦(高音弦) 下側:6弦(低音弦) | アルバート・キング オーティス・ラッシュ 松崎しげる | 高音弦を下方へ引き下げる独特のチョーキングが可能。異次元のベンド幅を生むが、通常のコードフォームは使えない。 |
| 正規レフティモデル | 上側:6弦(低音弦) 下側:1弦(高音弦) | カート・コバーン ポール・マッカートニー | ノブやスイッチが本来の操作位置にあり演奏性は安定するが、ジミヘン特有の逆スラントトーンは出ない。 |
この「右利き用ボディに弦を通常順で張り直す」というセッティングこそが、ストラトキャスターの構造的特徴と化学反応を起こし、後述する驚異的なトーンイノベーションを生み出すことになります。
科学的に解明された「音作りの秘密」|リバースヘッドと逆スラントピックアップの音響効果
ジミヘンが鳴らした太く粘りがありながらも抜けの良い歪みサウンドは、単にマーシャルアンプをフルアップにしただけでは説明がつきません。右利き用ストラトキャスターをひっくり返してレギュラーチューニングで張ることで、2つの物理的・音響的変化が発生していました。
1. ピックアップの傾き(逆スラント)とポールピースの反転
通常のストラトキャスターのリア(ブリッジ側)ピックアップは、高音弦(1弦側)がブリッジに近く、低音弦(6弦側)がネック寄りに傾いてマウントされています。これは1弦の高域をシャープにし、6弦の低域をウォームにするための設計です。
しかし、ボディを逆さに構えるとこの関係が完全に逆転します。
- 1・2弦側:ピックアップがブリッジから離れてネック寄りに配置されるため、高音域のキンキンとした耳障りな成分(トレブルの痛さ)が抑制され、甘く太いトーンに変化。
- 5・6弦側:ピックアップがブリッジ極限まで近づくため、低音のブーミーな濁りが削ぎ落とされ、硬質で芯のあるタイトなアタックに変化。
さらに、当時のビンテージストラトに採用されていた「スタガード・ポールピース(弦ごとの磁極の高さが異なる仕様)」も上下反転します。本来は音量バランスを取るために3弦が高く設計されていたポールピースが、逆転によって現代のエレキギターで太くなりやすいプレーン弦と巻き弦の出力バランスを絶妙に整える結果となりました。大音量のマーシャルアンプにファズフェイス(Fuzz Face)を通した際、耳をつんざく不快なハイを抑え、図太いリードトーンが得られたのはこの逆スラント構造のおかげです。
2. リバースヘッドがもたらす「テンション感の違い」
右利き用ネックを左手で構えると、ペグ(糸巻き)の配置が逆になる「リバースヘッド」状態になります。ナットからペグポストまでの距離(余長)が弦ごとに変化するため、演奏フィールに明確な差が生じます。
6弦側はペグまでの距離が最も長くなり、チョーキングやピッキング時のしなやかな追従性と豊かなローエンドの共鳴を獲得します。逆に1弦側はペグまでの距離が最短となり、ナット部の摩擦ロスが減ることでレスポンスの速い鋭い立ち上がりと正確なピッチ感が得られます。このテンション感の絶妙なアンバランスさが、ジミヘンのダイナミックなブルースベンドと激しいコードストロークを支えていました。

一般に知られていない盲点とネットの誤解|「ただ裏返しただけ」では弾けない理由
ギター初心者の間でよくある誤解が、「右利き用ギターを買ってきて、弦を逆に張れば明日からジミヘンになれる」という思い込みです。現場のクラフトマンやプロギタリストの検証データが示す通り、実際には複数の物理的な障壁と加工が必要不可欠です。
ナットとオクターブチューニングの壁
右利き用ギターのナット溝は、1弦側が細く6弦側が太く切られています。そのまま弦を逆に張ると、細い溝に太い6弦が入らず浮いてしまい、逆に1弦は溝の中でガタついてシタールのような異音(ビビり)が発生します。そのため、ナットを完全に新造するか削り直すリペアが必須です。
さらに、ブリッジサドルのオクターブ調整も完全に逆方向へ振り切る必要があります。ストラトキャスターのサドル可動範囲によっては、左利きセッティングにした際に正確なピッチ(音程)を合わせきれない個体も存在します。
演奏時に直面するコントロールノブの干渉
ボディを上下逆さまにすると、通常は下側にあるはずのボリュームノブ、トーンノブ、ピックアップセレクタースイッチがすべてボディ上部(演奏する右腕の真下)に来ます。
激しいストロークを行うと右腕の肘や前腕がボリュームノブに当たり、演奏中に音量が勝手に下がってしまったり、スイッチが勝手に切り替わってしまうトラブルが頻発します。ジミヘンはこのハンディキャップを逆手に取り、ピッキングの合間に小指でボリュームをミリ単位でコントロールして歪みのゲインを調整するという独自の超絶テクニックへと昇華させました。
また、トレモロアームの差し込み口が上部に来るため、アームが手首のすぐ上から垂れ下がる配置になります。これにより、コードを抑えながら手のひら(パーム)でアームを押し込むトリッキーなビブラート奏法が可能となりました。
右利き用ギター×左利き演奏が生んだ革新的奏法と現代のシグネチャーモデル
ジミ・ヘンドリックスの演奏スタイルは、この特異なギターセッティングと巨大な手によって完成されました。
その代表格が「親指を使ったルート音押弦(サムオーバー)」と、コードトーンに小指や薬指で装飾音(ダブルストップ)を絡める独自のバッキングスタイルです。『Little Wing』や『Castles Made of Sand』で見られる流麗なプレイは、ボディ上部のカッタウェイ(角)の形状が逆転したことで、ローポジションからハイポジションへの手のスライドが独特の角度で進入できるようになったことも寄与しています。
フェンダー社が現代に蘇らせた「ジミヘンモデル」の意図
フェンダー(Fender)社はこれまで、数多くの「ジミ・ヘンドリックス・シグネチャーモデル」をリリースしてきました。その中には、右利きプレイヤーがジミヘンサウンドをそのまま体験できるように開発された特殊なモデルが存在します。
- 右利き用ボディに「リバースヘッド」を搭載:低音弦側のテンションを稼ぎつつ、1弦側のベンドを容易にする仕様。
- リアピックアップの「逆スラント配置」:右利き用ギターでありながら、ピックアップのザグリをあえてジミヘンと同じ逆向きに傾けてマウント。
これにより、現代の右利きギタリストであっても、コントロールノブの誤操作に悩まされることなく、あの「太くマイルドな高域と締まった低域」をプラグインするだけで手に入れられるようになっています。
【プロの結論】ジミヘンセッティングを取り入れるべき人・慎重になるべき人の判断基準
もしあなたが現代のギターライフにおいて「ジミヘンスタイル(右利き用反転、またはリバース仕様)」を導入しようと考えているなら、以下の基準を参考にしてください。
【おすすめできるギタリスト】
- ファズやマーシャル系アンプを多用し、リアピックアップの「耳に刺さる高音」に悩んでいるプレイヤー
- ブルースやクラシックロック中心で、ダイナミックなチョーキングと親指を使ったコードフォームを極めたい人
- ステージ上での圧倒的なビジュアルアイコンと唯一無二の存在感を求めている人
【慎重になるべきギタリスト】
- ハイフレット(17〜21フレット)での超高速スウィープやテクニカルなソロを頻繁に多用する人(逆さボディの場合、カッタウェイが浅くなり高音弦のハイポジションに手が届きにくくなるため)
- ピッキングストロークが大きく、ブリッジ付近に手を置くフォームが定まっていない人(ノブへの誤接触リスク大)
- オクターブチューニングやピッチの完璧な正確性を何よりも優先するレコーディング現場中心のプレイヤー

【ジミヘン ギター 逆】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:有名になって大金持ちになった後も、なぜ特注の左利き用ギターを使わなかったのですか?
A1:後年、フライングVやSGなど一部の左利き用・左右対称ギターも使用していましたが、メインは一貫して右利き用ストラトキャスターでした。すでに「右利き用をひっくり返した状態の弦テンション、アームの位置、ピックアップの音質」がジミ本人の身体と耳に完全に馴染んでおり、正規の左利き用ギターではあの独特のニュアンスが出せなくなっていたためです。
Q2:右利き用ギターを左利き用に改造する場合、費用はどのくらいかかりますか?
A2:一般的なリペアショップに依頼した場合、左利き用牛骨ナットの製作・交換で約8,000円〜15,000円、ブリッジのオクターブ調整および弦高セットアップで約3,000円〜5,000円、合計で約12,000円〜20,000円前後が相場です。ストラップピンの位置変更(穴あけ加工)も含めるとプラス2,000円程度かかります。
Q3:ジミヘン以外に右利きギターを逆さまにして弾く有名ギタリストはいますか?
A3:ブルースの巨人であるアルバート・キングやオーティス・ラッシュ、日本では松崎しげる氏が有名です。ただし彼らは弦を張り替えずに「高音弦が上」の状態で弾くスタイルです。ジミヘンのように「右利き用を逆さにし、弦だけ通常配列に張り直す」というスタイルは、ドイル・ブラムホールIIなどのフォロワーギタリストに受け継がれています。
まとめ:偶然の産物がロック史を塗り替えた|ジミヘンが遺した音響の真理
ジミ・ヘンドリックスが右利き用ギターを逆さまに構えていたのは、父親の偏見による抑圧と、左利き用ギターが手に入らなかった経済的困窮という過酷な制約から生き延びるための苦肉の策でした。
しかし、その逆境を受け入れ、右利き用のストラトキャスターに弦を張り直して鳴らした瞬間、「逆スラントピックアップ」と「リバースヘッド」という物理的な音響マジックが発動しました。耳を刺さない艶やかな高音、タイトに唸る低音、そしてアームバーの位置が生んだ予測不能のフィードバック奏法——すべては偶然と必然が交錯した結果生まれた、ロック史上最大の奇跡だったのです。
不便さや制約をクリエイティビティの武器へと変え、永遠のトーンを創造したジミ・ヘンドリックス。彼が逆さまのギターから放ったサウンドは、時代を超越した真理として今も世界中のギタリストの魂を揺さぶり続けています。 (出典: ジミヘン ギター 逆(Yahoo!ニュース))